大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 平成8年(ラ)153号 決定 1997年5月30日

主文

原決定を取り消す。

理由

一  本件執行抗告の趣旨(主文同旨)及びその理由は、別紙抗告状写しのとおりである。

二  当裁判所の判断

一件記録によれば、抗告人は、抗告状別紙物件目録記載1、2の物件(以下「物件1、2」といい、同目録記載の物件については同様に表示する。)について、平成元年一二月二二日に登記された極度額二二〇、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権を、物件3ないし5について、平成六年四月一九日に登記された極度額六、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権を有し、これに基づき本件不動産競売の申立てをしたこと、物件1、3ないし5の現況は一体となって、建物である物件2の敷地となっているが、このうち物件4、5については、もともとそれぞれ別の者の所有する隣地の一部であったところ、建物が侵入している疑いがあったため、平成六年四月に債務者が買い受け、同月一九日に移転登記が経由されたものであること、また、物件3については、その土地上に物件2が建築されていることが明らかであるが、当初建物とは異なる所有者に属していたところ、上記同日に債務者に対する交換を原因とする所有権移転登記が経由されたこと(当初の占有権原や債務者に譲渡された経緯については、記録上明らかではない。)、本件各物件につき評価人は、建物である物件2のためにその敷地である物件1、3ないし5について法定地上権が成立することを前提に、物件1を九、六六〇、〇〇〇円、物件2を六五、四九七、〇〇〇円、物件3を一、四九一、〇〇〇円、物件4を二九五、〇〇〇円、物件5を四八六、〇〇〇円と評価しているところ、原裁判所は、平成八年一一月一日付けで抗告人に対し、物件3ないし5について、上記評価額を合計した最低売却価額では、手続費用及び優先債権額一四、一二六、八四〇円(見込額)を弁済して剰余を生ずる見込みがない旨の通知をしたが、抗告人は、同月七日一括売却をされたい旨の上申をしたものの、民事執行法六三条二項所定の申出及び保証の提供をしなかったので、原裁判所は同月一四日、物件3ないし5につき無剰余を理由に競売手続を取り消す旨の原決定をしたことが認められる。

上記の事実によれば、物件3ないし5については物件2の敷地として、物件1と一体的に利用され、評価人による評価もこの一体利用を前提としたものであり、仮に物件3ないし5だけを独立して評価すれば、面積狭小、不整型、間口狭小の土地としてその評価額は更に低額となることは明らかである上、物件3ないし5は、物件2に対する根抵当権が設定された当時、債務者の所有でなかったのであるから、物件1、2のみにつき競売により売却を実施することになれば、物件3ないし5については物件2のために法定地上権は成立ないこととなり、このように敷地の一部とはいえ利用権を伴わない建物を生じるような売却の結果をもたらすことは相当でないことなどを考慮するならば、本件では、物件1ないし5相互の利用上これを一括して売却するのが相当であると考えられる。そして、このように一括売却によることが相当である場合には、無剰余かどうかの判断は、全物件についてすべきであるから、本件においてこれを検討するに、民事執行法六三条二項ただし書に定める剰余を生ずる見込みがあるといえることは明らかである。

そうすると、無剰余を理由に物件3ないし5についての競売手続を取り消した原決定は相当でないから、これを取り消すこととする。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 佐々木寅男 裁判官 佐村浩之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例